子どもの運動って重要なの?最新の研究結果からみる運動の効果

あそぼうや
なんで運動しなくちゃいけないの?何かいいことあるの?
子どもにとって活発に体を動かして遊ぶことは大切だと言われますが、実際、運動することでどんないいことがあるのでしょうか?
あそべえ博士
よし!今回は子どもの運動の効果について、最新の研究成果に基づいて解説するとしよう!少し長くはなるが、確かな情報をなるべく分かりやすく伝えるぞ。

まずは言葉の違いを理解しよう!「身体活動」「運動」「座位行動」って?

あそべえ博士
子どもの運動の効果について見ていく前に、これから頻繁に出てくる「身体活動」「運動」「座位行動」の違いは分かるかな?
げんき先生
「運動」という言葉はよく使いますけど、他の言葉はあまり聞いたことありません。ザイコウドウ(座位行動)?って初めて聞きました!
あそべえ博士
そうじゃな!それらの違いを理解するために、まずは人が1日をどのように過ごすかを見てみよう。
Fukushima N et al. (2018) J Occup Healthのホワイトカラーのデータを基に作図1)
あそべえ博士
上の図から分かるように、人は起きている時間の多く、実に70%もの時間を座ったり寝転んだりして過ごしておるのじゃ。この行動は「座位行動(ざいこうどう)」とよばれておる。
げんき先生
そんなに長い時間、座ったりして過ごしているんですね!
あそべえ博士
うむ、そうなんじゃ。それに対して、「身体活動」の時間は30%ほど。その中でも、体力向上のために意図的に実施するような「運動」の時間はわずか数%、中には0%のという人もざらにおる
げんき先生
運動時間というのは、1日の中でもとっても少ない時間なんですね。
あそべえ博士
それにも関わらず、今までのガイドラインでは運動時間ばかりに注目して、「1日〇〇分、運動しましょう!」などと呼び掛けておった。もちろん体を動かす時間を多くしていくことは重要なんじゃが、最近では1日の行動の大半を占める座位行動にも注目すべきという考えが広まっておる。つまり、「運動不足」と「座り過ぎ」は別の概念として気をつけていく必要があるのじゃ!
あそべえ博士
有名な研究として、約22万人の45歳以上のオーストラリア人を追跡した研究がある2)
van der Ploeg et al. (2012) Arch Intern Medを基に作図2)
あそべえ博士
1週間あたりの運動時間が300分以上あるような集団でも、1日11時間以上座っているような人たちは総死亡リスクが高いということなんじゃ。
げんき先生
なるほど!体を動かすこととは別に、座ってばかりいないことも考えていく必要があるんですね。まず大人も気をつけていきますね!

子どもの身体活動・座位行動の世界的なガイドライン

2019年、世界保健機関(World Health Organization: WHO)は、世界中の28人の専門家を集めて「身体活動ガイドライン開発グループ」を設立しました。
そして、2019年7月までに世界中で発表された膨大な研究結果を集めて評価し、ガイドラインの根拠としてふさわしいかを検討しました。
(WHOガイドライン本編の附属書A1・A2に91ページにわたってまとめられています3)。)

げんき先生
専門家たちが集めたのは、5~17歳の子ども身体活動・座位行動と「9つの健康指標」との関連について検討した研究じゃ!
げんき先生
どんな指標なんですか?
あそべえ博士
それは、次の9つじゃ!子どもの運動がこれらにどんな効果をもたらすのか?詳細にまとめた研究結果4)を紹介しながら見ていくことにしようかの!

専門家が話し合いを重ねて決めた「子どもの9つの健康指標」は次の通りです。

体力(筋力、持久力、運動技能の発達など)
心血管代謝の健康(血圧、脂質異常、グルコース、インスリンなど)
骨の健康
肥満症
副作用(ケガや傷害など)
メンタルヘルス(抑うつ、自尊心、不安症状、ADHDなど)
認知機能(学力、実行機能など)
向社会的行動(問題行動、友人関係、ソーシャル・インクルージョンなど)
睡眠の量と質

子どもの身体活動と健康との関連

① 子どもの身体活動はどんな健康と関連するの?

あそべえ博士
現在、子どもが活発に体を動かすことで良い影響があると分かっておることは次の通りじゃ!
心肺機能(持久力)の向上 筋力の増大 骨の健康
肥満症の予防 心血管代謝の健康 うつ病や抑うつ症状注1)の低減
学業成績の向上 記憶力の向上 実行機能注2)の発達

注1) 抑うつ:気分が落ち込んで何にもする気になれないような状態
注2) 実行機能:目的を定め、それを達成するために自分の持つ思考や感情や行動を、動かしたり、調整したり、抑制したりする機能

あそべえ博士
こうしてみると、運動は子どもの「体」だけでなく「心」や「脳」の発達にも重要だといえるな!
げんき先生
こんなにもたくさんの効果が明らかになっているんですね!
あそべえ博士
もちろん、まだよく分かっていないこともある。例えば、身体活動と運動技能の発達との間には、今のところはっきりとした関連は認められていないんじゃ。ひょっとしたら、将来スポーツを楽しむために重要な運動技能の発達には、身体活動の量よりも質(どんな運動を経験したか)の方が大切なのかもしれないのぉ。
げんき先生
意外ですね。よく動いている子ほど色んな運動が得意になるものだと思っていました!
あそべえ博士
子どもは一見、活発に動いているように見えても、経験している動きが偏っている(色んな動きを経験できていない)こともある。子ども時代にどんな動きを経験すればよいのかについては、また別の機会に話すとしよう。
他にも、子どもの身体活動と副作用、向社会的行動、睡眠との関連性を結論づけることができるエビデンスは今のところないか、非常に限られています。
今後、新たな研究成果が積み重なってきたら、情報をアップデートしていきます。

② 子どもの身体活動は多ければ多いほどいいの?(量、持続時間、頻度、強度)

身体活動が子どもにとって様々な恩恵をもらたすことが分かりました。

では、どれくらい体を動かせばよいのでしょうか?また、運動量が多ければ多いほど、効果も高いのでしょうか?

あそべえ博士
今のところ、身体活動の量反応関係(どれくらいの活動量でどれくらいの効果が期待できるのか)はよく分かっていないんじゃ。ただ、これまでの研究で「1日平均60分の中強度~高強度の身体活動」をすることが、子どもの様々な健康にとって良い影響があると報告しているものが多いので、現在は1日平均60分以上の運動が推奨されておる。
あそべえ博士
ちなみに、今までのガイドラインでは「1日60分以上の中強度以上の身体活動」が推奨されておったが、今回のガイドラインから「1日平均60分以上の中強度以上の身体活動」が推奨されるようになったのじゃ。これは、研究では1日の最低基準時間ではなく、1日の平均基準時間(通常、1週間の身体活動量を測定して、1日当たりの平均的な運動時間を計算)を使って健康指標との関連を見ているからじゃ。1日平均60分以上で様々な健康指標に有益と分かってきたので、そのように改訂された訳じゃな。
げんき先生
研究で色んなことが分かってくると、それがガイドラインに反映されてくるんですね!これからも最新の情報を勉強していきたいと思います!

子どもの座位行動と健康との関連

① 子どもの座位行動はどんな健康と関連するの?

身体活動とは別に、座ったり寝転んだりする行動にも意識を向けていく必要があります。

座位行動に関する多くの研究が進み、今回のガイドラインから座位行動に関わる推奨も加わることになりました。

あそべえ博士
まず、座位行動にも色々あって、すべての座ったり寝転んだりして行う活動が良くないといっている訳ではない。例えば、学校外での読書や勉強などで座りがちになる行動は学業成績の向上と関連していることが分かっておる。他にも、絵を描く、工作をする、音楽を聴く、パズルをするなど脳の発達にとって重要な行動もある。ガイドラインで特に注意が促されているのは、娯楽としてのスクリーンタイム(テレビ視聴、ビデオゲーム、パソコン・スマホ・タブレットなどの視聴に関わる時間)に費やす座位行動の時間の長さじゃ。
あそべえ博士
現在、子どものスクリーンメディアに関わる座位行動時間が長いことで悪い影響があると分かっておることは次の通りじゃ!
体力の低下 心血管代謝の状態の悪化 睡眠時間の短縮
肥満症 メンタルヘルス注1)の低下 好ましくない向社会行動注2)

注1)メンタルヘルス:心の健康のこと。抑うつ、自尊心、不安症状、ADHDなど。
注2)向社会行動:他人や集団を助けようとしたり,こうし た人々のためになることをしようとしてなされる自主的な行為。

あそべえ博士
座位行動が直接的に健康指標への悪影響につながっている面もあるが、座位行動が長いことで身体活動の時間が減ってしまう(トレードオフの関係にある)ことで悪影響につながっている面もあるのじゃ。

② 子どもの座位行動は少なければ少ないほどいいの?(量、持続時間、中断する頻度、強度)

あそべえ博士
身体活動と同じく、今のところ子どもの座位行動(特に娯楽的なスクリーンタイム)と健康指標との間の量反応関係(どれくらいの量でどれくらいのリスクが予想されるのか)はよく分かっていない。そのため、現在のガイドラインでは「娯楽的なスクリーンタイムによる座り過ぎの時間を制限するべき」とだけ言われており、具体的なことは明言されていないんじゃ。
高強度の運動をたくさん行うことが、座位行動に関連する悪影響を緩和できるかについても、まだ分かっていません。
現時点で確かに言えることは、座りがちな行動に費やす時間が少ない方が子どもの健康にとっては良いようだということです。

これから研究が進んで、より確かで詳細なメッセージが出てくることが期待されています。

まとめ

あそべえ博士
子どもが運動することの効果や重要性について、理解を深めることができたかな?
げんき先生
はい!子どもがよく体を動かすこと、そしてテレビやゲームなどで座り過ぎないことの重要性と、子どもの心や体、そして脳の発達にどんな効果があるのかがよく分かりました!
あそべえ博士
心も体もたくましい子どもを育むことは世界の未来を創ることにつながる!
子どもの運動の重要性を多くの大人が理解して、子どもたちが仲間と思いきり体を動かせる環境を整えていくことが重要じゃな。
げんき先生
私も子どもたちとの関わり方を見直して、できることから始めてみます!
あそべえ博士
みんな元気にあそべ~!

<引用文献>

3) World Health Organization. WHO guidelines on physical activity and sedentary behaviour: web annex: evidence profiles. 2020.

4) Chaput JP et al. 2020 WHO guidelines on physical activity and sedentary behaviour for children and adolescents aged 5-17 years: summary of the evidence. Int J Behav Nutr Phys Act. 2020 Nov 26;17(1):141. doi: 10.1186/s12966-020-01037-z. PMID: 33239009; PMCID: PMC7691077.

 
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