早くから強化に選ばれた選手ほど、大人での成績は低かった

げんき先生
げんき先生
うちのチームにも「早く強化指定に入ったほうがいい」という話があるけど、本当にそれが将来につながるのかなあ。
にこりん先生
にこりん先生
小さいうちから一つの競技にしぼったほうが有利、という話もよく聞きますね。
あそべえ博士
あそべえ博士
その前提を、29の研究・6,233人ぶんのデータをまとめて確かめた研究があるぞ。結論からいうと、早く選ばれることはジュニアの成績には有利じゃったが、大人になってからの成績はむしろ低かったんじゃ。1)
にこりん先生
にこりん先生
えっ、逆になるんですか。

どんな研究?

  • 29の研究報告(2009〜2022年)から51の比較、のべ6,233名の選手をまとめたメタ分析
  • 9か国(カナダ、デンマーク、ドイツ、アイルランド、マレーシア、オランダ、ポルトガル、スペイン、英国)の選手。男性82%、女性18%
  • オリンピックの全競技とクリケット。団体競技68%、個人競技32%
  • ジュニアの選手2,328名と、シニア(大人の最上位カテゴリ)の選手3,905名
  • 比べたのは「成績が上の選手と下の選手で、強化プログラムに入った年齢が違うか」
あそべえ博士
あそべえ博士
ここでいう強化プログラムとは、競技団体のジュニア強化指定(年代別代表の選考を含む)と、ユースのスポーツアカデミー(国によっては「エリートスポーツ校」と呼ばれるもの)じゃ。どちらも、その年代でいちばん出来る子を、思春期かそれより前に選ぶ仕組みになっておる。
あそべえ博士
あそべえ博士
そういう位置づけじゃな。ちなみにこれらのプログラムは入れ替わりが激しく、1年あたり25〜55%の選手が入れ替わっておる。一度選ばれたら安泰、という世界ではないんじゃ。

わかったこと

あそべえ博士
あそべえ博士
ジュニアでは、成績が上の選手ほど強化プログラムに入ったのが早かった。効果量でいうと −0.53(95%信頼区間 −0.74〜−0.32)、中くらいの大きさじゃ。
あそべえ博士
あそべえ博士
ところがシニアでは向きが逆になる。成績が上の選手ほど、強化プログラムに入ったのが遅かった。0.56(95%信頼区間 0.40〜0.72)で、こちらも中くらいの大きさじゃ。
げんき先生
げんき先生
ジュニアで勝つ条件と、大人で勝つ条件が、正反対を向いているということか。
あそべえ博士
あそべえ博士
そのとおりじゃ。しかもこの傾向は、調べ方を変えても崩れなかった
  • プログラムの種類(競技団体の強化指定/スポーツアカデミー)で違いなし
  • 比べた水準(世界トップ級どうし/国内・地域の水準どうし)で違いなし
  • 個人競技と団体競技で違いなし
  • 記録系(陸上・水泳など)、球技、格闘技、採点競技のいずれでも、同じ向きの傾向がみられた
にこりん先生
にこりん先生
競技が違えば事情も違いそうなのに、同じ結果になるんですね。
あそべえ博士
あそべえ博士
ただし競技ごとの比較は、データが足りず正式な分析まではできておらん。あくまで「数字を並べると同じ向きに見える」という段階じゃ。ここは後で限界のところでも触れるぞ。

なぜ逆になるのか

あそべえ博士
あそべえ博士
著者らは2つの側面から説明しておる。ひとつは「誰が選ばれるか」、もうひとつは「選ばれた後に何をされるか」じゃ。
あそべえ博士
あそべえ博士
若くして選ばれる子には、体の成熟が早い、学年の中で生まれ月が早い、すでに主競技の練習量が多く他の競技の経験が少ない、という特徴が多い。どれも子どもの時期の成績は上げるが、大人になるまでにその効きめは薄れるか、逆転してしまうんじゃ。
にこりん先生
にこりん先生
早く伸びた理由が、そのまま大人まで続く力ではない、ということですね。
あそべえ博士
あそべえ博士
選ばれた後の話もある。専門的な練習を増やせば短期の成績は上がるが、練習が積み上がるほど、練習を足したときの伸びは小さくなっていく。実際に、シニアの世界トップ級が練習効率で優位に立ちはじめるのは青年期の後半で、その差は20代前半でいちばん大きくなっておった。
あそべえ博士
あそべえ博士
さらに、早くからプログラムに入ると、転居や転校、家族と離れることもある。時間を取られることで他の活動をあきらめることになり、練習量と試合量が増えることで、使いすぎによるけが・燃え尽き・競技をやめてしまうリスクも高まる。
げんき先生
げんき先生
早く始めたぶんだけ得をする、という単純な話ではないんだね。
あそべえ博士
あそべえ博士
そして、シニアで世界トップ級になった選手の多くは、より遅い年齢まで、地元のクラブや学校の活動の中で育っておったんじゃ。

誤解しないでほしいこと

にこりん先生
にこりん先生
これは「強化プログラムはよくない」「早く始めるのはだめ」という話なのでしょうか。
あそべえ博士
あそべえ博士
そうではない。著者らははっきり書いておる。複数年にわたる競技の練習も、子どもの時期に力を伸ばすことも、それを支える仕組みも、否定してはおらんのじゃ。
  • シニアの世界トップ級も、国内トップ級も、成績上位のジュニアも、全員が複数年にわたって相当量の練習をしていた
  • そして全員が、いずれかの年齢で強化プログラムに選ばれていた
  • 少なかったのは「早い開始+主競技の大量練習+他競技の経験がほぼない+早期のプログラム参加」という組み合わせ。これは成績上位のジュニアには多いが、シニアの最上位にはまれだった
げんき先生
げんき先生
主競技をやめろ、という話ではないんだね。
あそべえ博士
あそべえ博士
主競技は続けたうえで、早い段階で一本にしぼりすぎず、他の競技も複数年やっておく。そういう参加のしかたが、長い目で見た伸びしろにつながっておった、ということじゃ。

ここは注意して読みたい

にこりん先生
にこりん先生
この結果、どこまで受け取ってよいのでしょう。
あそべえ博士
あそべえ博士
いちばん大事な点から言うぞ。もとになった研究はすべて相関をみたもので、因果関係は言えん。「早く選ばれたから大人で伸びなかった」のか、「大人で伸びる子はもともと遅く選ばれる経路をたどる」のかは、この研究では区別できておらんのじゃ。
  • 対象の多くが男性(82%)で、オリンピック競技、西側の先進国の選手。米国は含まれていない
  • 全員が地域から国際水準までの競技者。もっと幅広い子どもたちに同じことが言えるかは分からない
  • 競技ごとの分析はデータが足りずできていない。競技によって違う可能性がある
  • ジュニア期に強化プログラムへ選ばれないまま大人で活躍した選手は、もとの研究に含まれていない可能性がある
げんき先生
げんき先生
日本のことを調べた研究でもないしね。
あそべえ博士
あそべえ博士
そのとおりじゃ。制度が違えば結果も違いうる、と著者ら自身が書いておる。それともうひとつ、この研究は何歳から専門化すべきかを直接調べたものではない。調べたのは、強化プログラムに入った年齢と、後の成績との関連じゃ。ここを取り違えんようにな。

現場へのヒント

あそべえ博士
あそべえ博士
著者らが挙げている提案は、大きく3つじゃ。
  • 多くの強化プログラムの選抜年齢は、もっと遅い年齢に後ろ倒しできる
  • 今の成績(試合でもテストでも)は将来の可能性を映さないので、選抜の基準としては妥当でない。かわりに、主競技の練習は中くらいに保ちつつ他の競技も複数年やってきた参加歴など、長い目で見た伸びしろの手がかりを見る。生まれ月や成熟の早さも併せて考える
  • プログラムの評価を「ジュニアの成績や次の段階に上がれたか」ではなく、「大人になってどこまで伸びたか」で行う
にこりん先生
にこりん先生
今の成績で選ぶと、どうしていけないのでしょう。
あそべえ博士
あそべえ博士
今の成績で選ぶ仕組みがあると、その年齢に間に合わせようとして、選手も指導者も保護者も発達を前倒ししたくなる。選抜の基準そのものが、早い特化を後押ししてしまうというわけじゃ。
げんき先生
げんき先生
基準を変えないと、現場の行動は変わらないということか。
あそべえ博士
あそべえ博士
もうひとつ、プログラムの側は、子どもにかかる時間の負担や、練習量・試合量・体への累積的な負荷を抑えるべきだとも書かれておる。伸ばすことと、削らないこと。その両方を見るのが大事じゃな。

出典


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